実録:優柔不断な男の災難

大きな買い物をするときは誰でも躊躇すると思う。

僕はあるお店で、買うことに決めた2万円の商品を小脇に抱えてレジカウンターに向かった。だが、途中でとても魅力的な商品に遭遇してしまい、突然欲しくてたまらなくなった。その商品の価格は約4万円で、手に持っている商品とあわせて買うことはできない。予算オーバーだ。

そんなわけで30分程ウロウロしながら迷っていたのだが、ちょっと煙草でも吸いながら頭を冷やしてゆっくり考えようと思い、手に持っている商品を棚に戻して外に出ようとした。

そのときである。僕は、ある40歳くらいのオバサンに、ずっとあとをつけられていることに気がついた。そのオバサン、実は僕が店に入ったときから既に店内にいて、なにか独り言のようなことをブツブツと言っている不審人物だったので、僕も空恐ろしくなった。

これが今流行のストーカーってやつなのか? もしや……俺は狙われているのか!? 俺の貞操が危ない!?

そんな考えが、僕の脳裏を一瞬よぎった。 そして店を出ようとした瞬間、僕はとうとう呼び止められた。

「XXXXはどこに戻しました?」

僕の目を見ず、うつむき加減にボソボソと小声で話すのでよく聞き取れない。「え?なんですか?」と聞き返すともう一度、今度は少し大きめの声で同じ質問を繰り返した。僕には一瞬、己のおかれた立場が理解できなかった。それまで不審だと思っていた人物に、逆に不審に思われていたのである。僕は傷ついた。

「えーっと、なにが……言いたいんですかね。」

僕は苛立ちを抑え、なるべく真摯に聞き返した。すると、

「呆けたってだめよ。ずっと見てたんだから」

僕は腹が立った。「なんだと?じゃあちょっと、こっち来てみろよ!」と、そのオバサンを商品陳列棚の前まで連れていき、棚をバンとたたいて「これだろ!?オバサン」と怒鳴った。するとそのオバサン、「あー。これこれ」などと言い、その商品を手にとり近くの店員に見せると、その商品の数は足りなくなっていないかなどと聞いている。僕は少し離れたところから2人のやり取りを傍観していたのだが、店員が商品の数を確かめ、その店の防犯システム(タグに共振回路が仕込まれててゲートを通ると警報が鳴るというアレ)の説明をしたのち、オバサンはどうにか納得したようだった。すると何事もなかったかのようにスタスタと足早に立ち去っていってしまった。

僕は呆然としてその場に立ち尽くした。

あいつは補導員だったのか?いや、補導員ならもう少しまともな応対のハズだ。

僕は店に入ってから、他のある商品のことで店員に質問したが待たされてウロウロした。わりと優柔不断な性格なので商品を手に取ったり棚に戻したりを繰り返した。レジに行くまでの間に違う商品の前でまた考え込んだりもした。確かにそういうことに目を光らせている人から見れば、僕はアヤシイ人物にみえたかもしれない。

だけど、思い違いならひとこと謝ってくれてもいいじゃないか。いくら挙動不審だっていったって、そりゃないぜ。

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