恋愛小説家

映画『恋愛小説家』を観た。大宮白鳥座のレイトショーだったのだが、レイトショーとはいっても 6:30 からで意外と早めの時間帯だ。

この映画は、潔癖症で偏屈な恋愛小説家「メルビン・ユードール」とウェイトレス「キャロル」との恋愛物語だ。

ジャック・ニコルソン扮する売れっ子恋愛小説家は病的な潔癖症で、外食するときはバイキンを恐れてプラスチックのナイフとフォークを持ち歩き、歩道の割れ目は避けて歩くし、石鹸は1回きりの使い捨て。とんでもなく毒舌で誰からも嫌われている。

そんなメルビンが喘息もちの息子の世話で人並みの幸せや恋愛を満喫できないでいるキャロルに恋心を抱く。だがメルビンはフィクションとしての恋愛を書く事ができても、現実の恋愛となるとこれがからきしダメ。 恋心とは裏腹に口から出るのは相手を傷付けるような皮肉ばかり。

そんなメルビンの気持ちを知って、はじめは拒んでいたキャロルだが、次第にメルビンの毒舌の裏に隠された親身さに心を開いていく。またその過程として、隣人であるゲイの画家サイモン(グレッグ・キニア)とその飼い犬バーデルが、メルビンの「素直な優しさ」を引き出す重要な役割を演じている。

この映画の見所はメルビンとキャロル2人の頑なな心の解体の系譜である。他の多くのラブ・ストーリーがそうであるようにその経緯はなかなかそう容易なものではないのだが、どんなに頑固な人間でも動物と赤ん坊には心を開くという定説どおり、メルビンもはじめは嫌がっていたバーデルの世話をしているうちに情が移り、やがてサイモンにも心を開くようになる。

サイモンに勇気を与えられ、メルビンはキャロルにこう打ち明ける。

『この病気(偏執症)も、薬を飲めば治ると医者には言われてるんだ。だけど僕は薬が大嫌いなんだ。小さい頃から。だからずっと、薬なんて飲んでなかった。でも、 君に逢って・・・そう、あれ以来、僕はちゃんと薬を飲み始めたんだ。……少しでも良い人間になりたかったから……』

そして最後には素直に想いを打ち明けるのだ。

『誰も、君が素敵だってことに気がついてない。でも僕は知っている。いつもテーブルに食べ物を運んでくれる女性が、世界で一番素敵な女性だって事を。そして、君の素晴らしさに気がついている僕自身を、僕は誇らしく思ってる』

なんて素敵な台詞なんだろう。なにも豪華客船に乗ってなくたって、こんなに心暖まるラブストーリーが成立するのだ。

いつも恋人に思ってもいない事を言って傷つけてしまうような人は特に、この映画を2人で見に行く事をお勧めする。映画館を出る頃には、きっと素直で優しい気持ちになれるに違いない。

恋人と手を繋いで、歩道の割れ目をよけながら少し遠回りして帰ろう。そして次の日の朝一番に、2人でパン屋さんに焼き立てのパンを買いに行くのだ。

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