ひらがな

テツルさんの「ひらがなひらがなひらがな」という記事を読んで、思い出したことがある。

ch-1000 ver.2: ひらがなひらがなひらがなより

娘H(4)が本を広げてひらがなを読んでいたときのこと。
「ママ~~~」
と質問してきました。
「なに?」
「あのねー、『こも』ってなあに?」
「こも?」
「うん、『こも』」
娘H(4)が抱えている本を覗き込んでみると。
「・・・あ、それね、それは『ニモ』」


そう、あれは二十歳そこそこだった気がする。友人と2人で、ある居酒屋に入ったときのことだ。確か普段はあまり行かない店だった。我々は席に着き、とりあえずビールを注文。つまみは何にしようかと友人がメニューを見ていた矢先に彼が突然、僕にこう問いかけた。

「なあ、このニーンってなんだろう?」

ニーン?にーん?にいん?なんだそりゃ。そんな食べ物初耳である。

耳慣れない言葉はどこかしら異国の響きを感じさせ、未だ経験したことのない味覚との出会いに対する期待が、嫌が応でも高まってくる。僕は興奮を抑え切れず、すぐさま「ニーン」とやらの注文を提案した。「そうだな。頼んでみようか」などと友人も乗り気である。

念のため「ニーン」の値段を確かめようとその友人からメニューを奪い取った僕は、そこで一瞬思考停止に陥った。このとき僕の身に起きたことは、記号論を少しでもかじったことのある人ならば、ラングやパロール、シニフィアンといった語彙を用いてうまく説明することができるかもしれない。でもその時の僕にはソシュールなんてどうでもよかった。ただ、僕の中で何か熱いものが静かにかき消されていく気がした。

僕の手にしたメニューには、流麗な縦書きの平仮名で「にしん」と記されていたのだった。

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